た者がございますの。それが近頃結婚しまして、阪神の香櫨園《こうろえん》に所帯を持ちましたんですが、主人は大阪の或る会社に勤めていまして、月給が九十円、外にボーナスが幾らとか申しておりましたが、それと、家賃の三十円だけを毎月郷里から補助して貰《もら》っておりますので、まあそんなものを全部併せて月収平均百五六十円の生活なのでございますね。それでわたくし、月々の遣《や》り繰りをどんな風にやっているかと案じていたのでございますが、行って見ますと、月末に主人が九十円の月給を持って帰ります。そうすると直ぐそれを、瓦斯《ガス》代、電気代、被服費、小遣、などと記した幾種類もの封筒が出来ておりまして、それへそれぞれ区分して最初に収めてしまいまして、それで以て次の月の生計を立てると云う風なんですの。そんなで随分切り詰めた暮しをしている筈なんでございますが、わたくし、夕飯の御馳走《ごちそう》に呼ばれましたら、思いの外気の利《き》いたお料理を出しますの。そして室内の装飾なんぞも、そう見すぼらしくなく、なかなか上手に考えてしてありますの。けれど勿論《もちろん》一方では大いにチャッカリしておりまして、この間一緒に大阪へ参りました時、電車の切符を買ってくれと云って蝦蟇口《がまぐち》を渡しましたら、ちゃんと回数券を買って、残りは自分が貰って置くのでございます。これにはわたくし、ほとほと感心してしまいまして、自分なんぞが監督したり心配したりするなんて烏滸《おこ》がましいことだと、此方が耻《はず》かしくなってしまいました」 「全く、この頃の若い人よりか却ってお母さん達の方が無駄遣《むだづか》いをされますわ」 と、幸子が云った。 「うちの近所にも若い奥様がおられまして、二つになる女の児がおありになるのですが、この間用事で門口まで伺いましたら、まあお上り遊ばせ、まあまあ云われますので、上って見ますと、女中もいないのに実によくその辺が片附いていまして、―――それから、そうそう、そういう奥様は家の中でもきっと洋服で、椅子にかけておられる方が多いように思いますけれど、そうではございませんか知ら?―――兎《と》に角《かく》その方はいつも洋服なのですが、その日は部屋の中に乳母車を置いて、それへ赤ちゃんを、這《は》い出さないように巧《うま》いこと入れておられまして、わたしがあやしていましたら、済みませんけれどちょっ