それから暫時二人が別席に引き取っている間、残りの者は又雑談を交していた。 「さっき、瀬越さんどんな話《はなし》しやはったん」 と、幸子は帰りの自動車の中で云った。 「何やいろいろ聞かはったけど、………」 と、雪子は口籠《くちごも》りながら、 「………別にどう云うて、纏《まと》まった話《はなし》しやはれへなんだ。………」 「まあ、メンタルテストやってんな」 「………」 おもては雨が細かになって、春雨のようなしとしととした物静かな降り方をしていた。雪子は先刻の白葡萄酒が今になって循《まわ》って来たらしくて、両|頬《ほお》にぽうッと火照《ほて》りを感じながら、もう阪神国道を走っている車の窓から、微醺《びくん》を帯びたチラチラする眼で、濡《ぬ》れた鋪装《ほそう》道路に映る無数のヘッドライトの交錯をうっとりと見ていた。 [#5字下げ]十二[#「十二」は中見出し] 明くる日の夕方、貞之助は家に帰って来ると、 「今日井谷さんが事務所へ見えたで」 と、幸子の顔を見るなり云った。 「何で又事務所へ行かはったんやろ」 「お宅へお伺いせんならんのですけど、今日用事があって大阪まで参りましたので、そのついでに、奥さんよりは御主人の方がお話が早い存じまして、突然で失礼でございますが此方へお伺いさして戴《いただ》きました云うねん」 「そんで、どんな話?」 「大体ええ話やねんけど、―――ま、彼方へ来なさい」 と、貞之助は幸子を書斎へ連れて行って語った。 井谷が云うには、昨夜貞之助たち三人が帰ってから、外の者達は二三十分なおあとに残って話し合った。そして要するに、瀬越は大変乗り気なのであるが、ただ、お嬢様のお人柄やお器量については全く申分ないけれども、お目に懸った感じではいかにもお弱そうに見えるのが気になる。ついては、御病身と云うようなことはないであろうか。そう云えば弟の房次郎も、いつぞや女学校へ行ってお嬢様の在学時代の成績表を見せて貰《もら》った時、少し欠席日数が多いように思ったと云うのであるが、女学生時代にたびたび病気をなすったのではないであろうか。―――と、そう云う質問であった。貞之助は、女学生時代のことは自分は知らないので、欠席日数|云々《うんぬん》については家内や当人に質《ただ》してからでなければ何とも申し上げられないが、少くとも自分が知ってから以