上にもなるのだし、先日|蘆屋《あしや》を訪ねた時にも、その数日後オリエンタルホテルの見合いの時にも、「あと一週間ぐらいお待ち願えれば」と云う挨拶を聞かされているのであるから、好い加減|痺《しび》れを切らすのも尤《もっと》もなのであるが、事実は幸子が始めて本家へこの事件で相談に行ったのがやっと十日か半月程前のことなので、それでなくてもこう云う調査には大事を取りたがる本家が、そう早速に返事をする筈《はず》はないのであった。要するに幸子が井谷に攻め立てられてつい出まかせに「あと一週間」と云ってしまい、貞之助が又仕方なくそれに口を合せたのが悪かったので、正直のところ、本家では瀬越の戸籍謄本を取り寄せるべく原籍地の役場へ云ってやったのが、漸《ようや》く両三日前に届いたなどと云っている始末で、興信所の報告も、国元の方を調べるのだとすると相当暇が懸るであろうし、まだその後で、いよいよ極めると云うことになれば、もう一度念のために然《しか》るべき人を国元へ遣《や》るなどと云っているのである。貞之助夫婦は今更困って、もう四五日もう四五日と云って引っ張っているより外はなかったが、井谷はその間にも蘆屋へ一度と大阪の事務所へ一度催促に見え、こう云う話は早いに越したことはございませんよ、兎角《とかく》邪魔が這入《はい》り易いものですからねとか、いいとなったら今年のうちにでも式をお挙げになることですねとか、云うようなことまで云って帰った。そして、よくよく待ちかねたと見えて、まだ会ったこともない本家の姉を直接電話口へ呼び出して催促をしたとやらで、驚かされた姉が直ぐその後から幸子に電話で知らせて来た。幸子は自分より又一層気の長い、物を尋ねられると五分も立ってから返答をするような本家の姉の、面喰《めんくら》った顔が眼に見えるようで可笑《おか》しかったが、井谷は姉に向っても、好い話は邪魔が這入り易いからと云う文句を使って、いつもの早口で大いに説き付けたらしいのであった。 [#5字下げ]十四[#「十四」は中見出し] そうこうするうち、月が変って十二月に這入《はい》ってからの或《あ》る日、本家の御寮人様《ごりょうにんさん》から電話と云うので、幸子が出ると、先達ての縁談のことについて、大そう調べがおそくなったけれども、漸《ようや》く大体のことが分ったから、今日|此方《こちら》から出向いて行く、と、そう