であった。本来ならば、この間から鶴子がひとりで引越しの準備に忙殺されていることは分っていたのだから、雪子と妙子とは云われないでも上本町へ戻って、姉の手伝いをすべきであったのに、二人ともなるべく本家へ行くことを避けていたのは、―――それでも雪子は呼び付けられて一週間ばかり泊って来たけれども、妙子の如《ごと》きは急に製作が忙しくなったと云い出して、仕事部屋に立て籠《こも》ったきり、蘆屋にさえ、先日姉が来ていた間にちょっと一晩戻っただけで殆《ほとん》ど寄り着かず、大阪の方へは全然帰らずじまいであったのは、―――何よりもその問題に先手を打って、自分達は関西に居残りたいのだと云う意志表示をしている積りなのであった。が、叔母はなお言葉をついで、これは此処だけの話だが、どうして雪子ちゃんやこいさんは本家へ帰るのを厭《いや》がるのであろうか、辰雄さんとの折合がよくないのだとも聞いているけれども、辰雄さんは決して雪子ちゃん達の考えるような人ではないし、二人に対して何の悪感情も持ってはいない、ただ、名古屋の旧家に生れた人で、考え方が非常に律義《りちぎ》なので、今度のような場合に、二人が本家へ附いて来ないで大阪に居残ると云うのは、世間体が悪く、むずかしく云えば兄としての体面に関すると思っているらしいので、もし云うことを聴いてくれないと、鶴子ちゃんが板挟《いたばさ》みになって苦しまなければならない、それで、この際幸子ちゃんへ折入っての頼みと云うのは、二人は幸子ちゃんの云うことなら聴くのだから、幸子ちゃんから巧《うま》い工合に説き付けて貰えないであろうか、誤解してくれては困るが、こう云ったからとて、二人が戻って来ないのを幸子ちゃんのせいにしているのではない、いっぱし分別のある大人で、もう奥様と云われてもよい年頃になっているものが、厭だと云うのを、端《はた》から何と云ったって、そう無造作に、子供を引き戻すような訳に行かないことは云う迄《まで》もないが、誰から云うよりも、幸子ちゃんから云って貰うのが一番|利《き》き目がありそうだと云うことに相談がきまったので、是非一つ承知させて貰いたい。そう云って叔母は、 「今日は雪子ちゃんもこいさんもお内にいてやおまへんか」 と、昔ながらの船場言葉で云った。 「妙子はこの頃ずっと製作が忙しいて、めったに戻ってけえしえへん。………」 と、幸子も古めかしい云い