》になった時にそう思うたが、子供云うもんは何でああ早う土地の言葉を覚えるねんやろ。―――あの時は十一月やよってに、まだ東京へ行って二三箇月しか立ってえへんのんに、本家の子達はもうちゃんと東京弁使うてるねんが。それも小さい子供ほど上手やねんで」 「もう姉ちゃんの年になったら、あかんやろなあ」 と、幸子が云った。 「そらあかん。第一姉ちゃんは覚えよう云う気イないねんもん。この間もバスの中で大阪弁で話しかけるさかいに、外のお客がみんな姉ちゃんの顔見るのんで難儀したけど、姉ちゃん云うたら、ああ云うとこはえらい心臓やねんな。顔見られても平気で話してるねんわ。そしたら、それ聞いて、『大阪弁も悪くないもんだね』云うてる人もあったけど」 雪子は、「大阪弁も悪くないもんだね」と云う東京弁のアクセントを上手に真似《まね》た。 「年増の女はみんな心臓や。僕の知ってる北の芸者で、これはもう四十以上の老妓《ろうぎ》やねんけど、東京へ行って電車に乗ったら、わざと大阪弁で『降りまッせえ』と大きな声で云うてやりまんねん、そしたらきっと停めてくれはります云う女があるねんが」 「輝雄ちゃんなんか、お母ちゃんは大阪弁を使うさかいに一緒に歩くのん御免や云うてますねん」 「子供はそうかも知れんな」 「姉ちゃんは旅にでも出てる気持やろか」 と、妙子が云った。 「ふん、大阪と違うて、どんなことしても誰も何とも云うもんはあれへんし、気楽なとこもあるらしいねんわ。それに東京と云うとこは、女がめいめい個性を貴んで、流行云うもんに囚《とら》われんと、何でも自分に似合うもんを着ると云う風やさかい、そう云う点は大阪よりもええ云うてるわ」 葡萄酒のせいもあるかも知れないが、雪子はさすがによく燥《はしゃ》いで例になくおしゃべりをした。その様子には、口に出してこそ云わないけれども、半歳ぶりに関西の土地へ戻ることが出来たうれしさ、―――蘆屋の家の応接間に、こうして幸子や妙子たちと夜を更《ふ》かしていられる嬉《うれ》しさを、包みきれないものがあった。貞之助は、 「もうそろそろ寝ようやないか」 と云いながらも話が弾《はず》むので、又立って行って何本目かの薪をくべた。 「そのうちに一遍、あたしも東京へ連れて行って貰おう思うてるけど、渋谷の家はえらい狭いのんやてなあ。一体いつ宿変えするのん」 「さあ、―――何も家