作と云う仕事もあり、それに伴う収入もあるのに、(そして密《ひそ》かに云い交している人もあるらしいのに)雪子ちゃんには何もそう云うものはないし、極端に云えば身の置き所もないような境涯なのだから、あたしとしてはあの人が可哀そうでならない、それで悦子に雪子ちゃんの孤独を慰める玩具《おもちゃ》の役をさせてあるのだ、と云うのであった。 雪子は幸子のそこまでの考を酌《く》み取っていたかどうか知れないが、実際悦子が病気などの時には、母親でも看護婦でもとてもこうは行くまいと思えるほど献身的に介抱に努めた。そして悦子がいるために誰か一人留守をしなければならない場合、なるべく自分がその任に当って、幸子夫婦や妙子を出してやるようにした。だから今日の日曜なども、いつもならば彼女は居残るところなのであるが、生憎今日の会と云うのは、阪急|御影《みかげ》の桑山邸にレオ・シロタ氏を聴く小さな集りがあって、それに三人が招待されていると云う訳で、雪子は外の会ならば喜んで棄権するのだけれども、ピアノと聞くと行かずにはいられないのであった。で、幸子と妙子とは会が終ってから、有馬方面へハイキングに出かけた貞之助と落ち合って、神戸で晩飯をたべる約束になっていたのであるが、雪子はその方だけを棄権して先に帰ることにしたのであった。 [#5字下げ]七[#「七」は中見出し] 「ちょっと、中姉《なかあん》ちゃんまだやろか。―――」 二人はさっきから門のところに待っているのに、幸子がなかなか出て来そうもないので、 「―――もう二時になるがな」 と、妙子は運転手が扉《とびら》を開けて立っている方へ寄って行った。 「えらい長い電話やなあ」 「まだよう切らんのんかいな」 「切ろう思うても切らしてくれはれへんのんで、気が気やないねん」 雪子は又しても他人事《ひとごと》のように可笑《おか》しがりながら、 「悦ちゃん、お母ちゃんに云うといで。―――電話ええ加減にして早よいらっしゃいて」 「乗ってよか、雪姉《きあん》ちゃん」 と、妙子は扉に手をかけながら云ったが、そう云う礼儀は正しく守ることにしている雪子が、 「待ってよう」 と云ったきり応じないので、自分も仕方なく車の前に止った。そして悦子が奥へ駈《か》け込んで行ったのを見ると、 「井谷さんの話のこと、聞いたで」 と、運転手の方へ聞えないように云