ごしゅでん》風の姿をさせ礼儀作法は申すまでもござりませぬが物好きな主人になりますと遊芸などをならわせたものでござりますから、このやしきもいずれそういう物持の別荘なのであの琴をひいた女はこの家の御寮人《ごりょうにん》でござりましょう、しかしその人は座敷のいちばん奥の方にすわっておりまして生憎《あいにく》とすすきや萩のいけてあるかげのところに※[#「兵」の「丘」に代えて「白」、第3水準1-14-51]《かお》がかくれておりますのでわたくしどもの方からはその人柄が見えにくいのでござりました、父はどうかしてもっとよく見ようとしているらしく生垣に沿うてうろうろしながら場所をあっちこっち取りかえたりしましたけれどもどうしても生け花が邪魔になるような位置にあるのでござります、が、髪のかっこう、化粧の濃さ、着物の色あいなどから判じてまだそれほどの年の人とは思われないのでござりまして、殊《こと》にその声のかんじが若うござりました、だいぶん隔たっておりましたから何を話しているのやら意味はきき取れませなんだがその人のこえばかりがきわだってよく徹《とお》りまして、「そうかいなあ」とか「そうでっしゃろなあ」とか大阪言葉でいっている語尾だけが庭の方へこだましてまいりますので、はんなりとした、余情に富んだ、それでいてりんりんとひびきわたるようなこえでござりました、そしていくらか酔っているとみえましてあいまあいまにころころと笑いますのが花やかなうちに品があって無邪気にきこえます、「お父さん、あの人たちはお月見をして遊んでいるんですね」とそういってみますと「うん、そうらしいね」といって父はあいかわらずその垣根のところへ顔をつけております、「だけど、ここは誰の家なんでしょう、お父さんは知っているのですか」とわたくしはまたかさねてそういってみましたけれど今度は「ふむ」と申しましたきりすっかりそちらへ気を取られて熱心にのぞいているのでござります、それがいまから考えましてもよほど長い時間だったのでござりましてわたくしどもがそうしておりまするあいだに女中が蝋燭《ろうそく》のしんを剪《き》りに二度も三度も立っていきましたし、まだそのあとで舞いがもう一番ござりましたし、女あるじの人がひとりでうつくしいこえをはりあげて琴をひきながら唄《うた》をうたうのをききました、それからやがて宴会がすんでその人たちが座敷を引きあげて