。………ソレカラ何時間後デアッタカ、マタ違ッタ夢ヲ見テイタ。最初ハ木村ガ裸体ノママデ立ッテイルヨウニ思エタガ、胴カラ生《は》エテイル首ガ、木村ニナッタリ僕ニナッタリ、木村ノ首ト僕ノ首トガ一ツ胴カラ生エタリシテ、ソノ全体ガマタ二重ニ見エタ。………  三月二十六日。………これで夫のいない所で木村さんに逢《あ》うことが三回に及んだ。昨夜はあの床の間に、まだ栓《せん》を開けてない新しいクルボアジエの罎が置いてあった。「あなたが買うて来たの」と云うと、「私知らない」と、敏子が否定した。「昨日外から帰って来たらこの罎が置いてあったのよ。木村さんがお届けになったのかと思っていたわ」と敏子は云ったが、「僕は知りません」と木村さんも云った。「先生ですよ、きっと。僕はそうだと思いますね。意味深重ないたずらですな」「パパだとしたら随分皮肉ね」―――二人はそんな風に云い合っていた。夫がこっそり投げ込んで行ったと考えるのが、一番ありそうなことのように思えるけれども、ほんとうのところは私には分らない。敏子か木村さんか、どちらかが買って来たと考えることも、決してなさそうなことではない。水曜日と金曜日はマダムが大阪へ教えに行く日で、帰りが十一時になるのである。この間の晩も、敏子はブランデーが始まると、ほどよい所で消えてなくなって、マダムの部屋にはいり込んでいたのだが、(このことを書くのは始めてである。夫に誤解されることを恐れて差控えていたのであるが、もうその必要もなさそうに思う)昨夜もかなり早くから見えなくなっていて、マダムが帰宅してからもまだしばらく母屋で話し込んでいた。私は意識を失ってから後のことはよく分らない。しかしどんなに酔っていたとしても、最後の最後の一線だけは昨夜も強固に守り通したと思っている。自分にはいまだにそれを蹈み越える勇気はないし、木村さんだって同様であると信じる。木村さんはそう云った、―――ポーラロイドという写真器を、先生に貸して上げたのは僕です。それは先生が、奥さんを酔わして裸になさりたがる癖があることを知ったからです。しかるに先生はポーラロイドでは満足できないで、イコンを使って写すようになりました。それは奥さんの肉体を細部に亙って見極めたいという目的からでもあったでしょうが、それよりも、真の狙《ねら》いは僕を苦しめることにあったのだと思います。僕に現像の役を負わせて、僕