から、「この頃はお前も女らしなったなあ」なんぞいいまして、蔭《かげ》ながら先生の御好意よろこんでました。尤《もっと》もわたし、あの人の事については何も主人にいいませなんだ。「夫に過去のあやまち隠しとくのんよろしゅうないから、――殊《こと》に肉体上の関係なかったのんなら告白しやすい訳やから、すべてを打ち明けておしまいなさい」と先生はいうて下さいましたけど、……けどどうも、……それはまあ、主人にしましてもあるいはうすうす気イついてたかも分れしませんのですが、私の口からは何やいいにくうもありましたし、この後間違いないように自分さい注意してたらええのや思いまして、何事も胸に収めてたのんです。ですから主人は私が先生からどんなお話伺うて来ましたやら、それは知りませんでしたけど、いろいろ為《た》めになること教《お》せてもろたに違いない思《おも》て、そういう心がけになったのんはええ傾向やいうてましてん。  そんな訳で、そいから暫《しばら》くは大人《おとな》しいに家い引《ひ》っ籠《こも》ってましたもんですから、この様子やったらまあ安心や思いましたもんか、そうそう己《おれ》も遊んではいられんからいうて、大阪の今橋《いまばし》ビルディングに事務所借って弁護士開業しましたのんが、あれが昨年の二月頃でしたかしらん。――はあ、そうです。大学の方は独法やりましたのんで、弁護士にならいつでもなれたのんです。始めは何でもプロフェッサアになりたいようにいうてまして、ちょうど私のあの事件ありました時分には、引きつづいて大学院の研究室の方い通《かよ》てましたのんですが、弁護士やる気イになりましたのんは別にこれちゅう理由あったのんではあれしません。そういつまでも私の実家の方に世話にばっかりなってましては義理も悪いし、私に対しても頭|上《あが》らんと思うたのんですやろ。いったい主人は大学時代に秀才やいう評判で、たいへんにええ成績で卒業しましたもんですから、そういう人間ならばいうのんで、嫁に来たとはいうもんの、婿《むこ》を取るのも同様にして結婚したのんです。そいでもう私の親たちは主人を信用してまして、いくらか財産も分けてくれまして、まあまああせるには及ばんから、学者になりたかったら学者になるで、ゆっくり勉強するがええ。洋行もしたければ夫婦で二、三年|彼方《あっち》い行《い》てくるがええなどいうてくれまして、――最