て毎朝一緒に出かけた方がええしなあ」いうてくれますねん。そんでも「うち[#「うち」に傍点]もうどっこも出とないわ、何処行たかてどうせロクなこと覚えへんねよって」いうて、自分ではその日から一廉《ひとかど》のハウスワイフになったつもりで、一日家の中で一所懸命仕事しました。夫の腹の中いいましたら、あないに我《わ》が儘《まま》やった私がまるで生れ変ったみたいに態度改めましたのんが、どない嬉《うれ》しいか分れしません。いうてまた、二人で仲好う大阪い通《かよ》てた先度《せんど》ごろの生活を取り返してみたいような気イもしますねん。そら私かってちょっとでも余計夫の傍に引っ着いてたい、離れたらその間に邪念妄想が起る、夫の顔さい見てたらあの人のこと忘れられるやろ思いますよって、一緒に着いて行きたいですけど、いや、そやない、もしひょっとして途《みち》であの人と会うたりしたら?……もうそんなことあったかて物いエへん気イやけど、そんでもばったり顔見合わしたらうちどうするやろ? 青なって、ぶるぶる顫《ふる》て、一と足も出んようになって、門《かど》で倒れてしまうかも分れへん思いましたら、外い出るのが恐《こお》うて、大阪どころやあれしません、つい電車路ぐらいまで行きましたかて、そやない人の影見てもはっ[#「はっ」に傍点]と襲われたみたいに、慌《あわ》てて家い飛んで逃げて、どきどき[#「どきどき」に傍点]する胸おさえながら、いかん、いかん、ちょっとでも出たらいかん、ここ暫《しばら》くは死んだ気イになってすッ[#「すッ」に傍点]込んでよ、水仕事でも拭《ふ》き掃除《そうじ》でも何でも構わんと精一杯働いてよと、自分で自分にいうて聞かすのんです。あの箪笥《たんす》の抽出《ひきだ》しにしもてある手紙なんぞ焼いてしまお、それより一番さき観音さんの絵エの方どないぞしてしまおと、それも私には毎日ぐらい気イになって、今日こそ焼こ、今日こそ焼こと、箪笥の傍まで行きますけど、手エ取ってみたら中が見となるやろなあ思たら、やっぱり恐うてよう開けませんねん。一日じゅうそないして暮らして、ゆうがた夫帰って来ますと、「ほんまによかった」とほっと重荷イおろします。「うち[#「うち」に傍点]このごろ朝から晩まであんたのことばっかり思い詰めてて、ほかの事なんにも考エへんようにしてんねよって、あんたかってきっとそうしててくれるわなあ」と、私は