でしまいましてん。……はあ、その赤いのんは何を使《つこ》たのんか聞かんとしまいましたんで、今でもときどき不思議に思いますのんですが、何ぞ芝居に使う血糊《ちのり》のようなもん隠しといたのんと違いますやろか。……「姉ちゃん、そんならもうこないだのことちょっとも怒ってへんわなあ、きっと堪忍してくれるわなあ?」「今度こそ欺したらあて[#「あて」に傍点]あんたを殺してやるわ。」「あて[#「あて」に傍点]かてさっきみたいな薄情なことしられたんやったら、生かしとけへん。」――ほん一時間ぐらいのあいだにすっくり元の馴《な》れ馴れしさに戻ってしまいましたのんですが、そうなると私は、急に夫の帰って来るのが恐《こお》うなって来ましてん。一旦ああいう訳になったのんが、より[#「より」に傍点]が戻ってみましたら、その恋しさは前より増して、もうちょっとの間も離れとないのんに、さしあたり、これから先、どないしたら毎日会えるねんやろか。「ああ、ああ、どないしょう。光ちゃん明日も来てくれるわなあ?」「此処の家《うち》い来てもええの?」「ええか、わるいか、もうそんなことあて[#「あて」に傍点]に分らん。」「そんなら一緒に大阪い行けへん? 明日姉ちゃんのええ頃に電話かけるわ。」「あて[#「あて」に傍点]の方からも電話かけるわ。」そないいうてる間に直《じ》ッきに夕方になってしもたのんで、「今日はもう帰るわなあ、ハズさんが戻って来やはるさかい、……」と、身支度しょうとしなさるのんを、「もうちょっと、もうちょっと」いうて何遍も引き留めましてんけど、「まあ、やんちゃ[#「やんちゃ」に傍点]ッ児《こ》やなあ、そんな分らんこというたらいかん、明日きっと知らしたげるさかい大人《おとな》しいして待ってなはれや」と、今ではあべこべ[#「あべこべ」に傍点]に私の方がたしなめられて、五時頃に帰って行きゃはりましてん。  夫はその時分大概帰りが六時頃でしたけど、その日イはいくらか心配して早《はよ》帰るか知らん思てましたのんに、やっぱりこないだじゅうからの事件が引き続いてると見えて、そいから一時間ぐらい立ってもまだ帰ってけえしません。私はそのあいだに部屋片附けたり、寝台|綺麗《きれい》に直したりして、床の上に落《お》ってた光子さんの足袋|拾《ひろ》て、――帰りしなに光子さんは私の足袋|穿《は》いて行きなさったのんです。――そのしみ