恐い事なんで出来ますかいな。誰ぞ知ってるお医者はん頼んだらよろしいがな』いうてんけど、そないしてる間に俄《にわ》かに光子さん苦しみ出しやはって、えらい騒ぎになってん。……」そんな風に、しゃべってるうちに傍《そば》から傍からいろいろな作り事考え出して、昨日の出来事をええ工合に織り交《ま》ぜて、――光子さんはあの本の処方で昨夜の間にそう[#「そう」に傍点]っと薬飲んだらしい、それがちょうどその時|利《き》いて来てだんだん痛みようが強《つよ》なって、――と、そこは昨日見た通り詳しいに話して、そないなって来ると自分にも責任あるよって帰るに帰られへん、そんでとうとう今まで傍についたげてたんやと、うまいこといい抜けしましたのんです。 [#5字下げ]その十六[#「その十六」は中見出し] 「今日もちょっと見舞いに行ってくるわ、放っといても気がかりやし、乗りかけた船やよってしょうがない。……」いうて、そいから五、六日のあいだというもの毎日のように何処ぞで会うてましてんけど、「何処ぞ人に見つけられへんとこで、毎日二、三時間ぐらい会えるとこあったらええのになあ」思てますと、「そんなんやったら大阪の市中の方がええし、……静かなとこよりかいって町中のゴタゴタしたとこの方が人目に附けへんし」いいなさって、「……いつや姉ちゃんに着物持って来てもろた家なあ? 彼処《あっこ》やったら気分もよう分ってるし、安心やねんけど、……彼処にせえへんか?」いやはりますねん。あの笠屋町の宿屋いうたら、私に取ったら忘れられへん口惜《くや》しい口惜しい思い出あるとこですのんに、まるでこっちの感情も何も踏み付けにした話ですねんけど、そないにいわれても「ふん、そやなあ、なんや極《き》まり悪いけど、行てもええなあ」いうて、腹立てることも出来んとおめおめ[#「おめおめ」に傍点]引っ着いて行ったぐらい、すっかり足元見られてしもてましたのんです。それに極まり悪いいうても初めの日イだけで、馴《な》れてみましたら女子衆《おなごしゅ》やかいも心得てて、帰りがおそなった時やらは、家の方い電話かけて褄目《つまめ》合うようにしてくれますし、……そんな訳で、しまいには別々に出かけて行って彼処《あそこ》から電話で呼び出したり、何ぞ急用出来た時にはお梅どんから知らしてもろたり、……ま、それもよろしいのんですけど、光子さんの家ではお梅ど