もよろしいのんですけど、光子さんの家ではお梅どんだけやのうて、お母さんも、外の女子衆も、みんながそこの家の電話番号知ってるらしいて、ときどき私や光子さんにかかって来ることありますのんで、何ぞ家の方ええように欺《だま》したあるに違いない思てたのんですが、或る日一人で先|行《い》て待ってたあいだに、「へえ、そうだす、……へえ、いいえ、あのう、さっきから待っておりますけど、まだ来やはれしまへん。……へえ、へえ、そないいうときます。……いいえ、どうしまして、……私の方こそいつも奥様出やはりましてえらいお世話になりまして、……」と、電話口でそない仲居さんがいうてるのんが何や知らんけったい[#「けったい」に傍点]ですのんで、「今の電話、徳光さんとこから違いますか?」いいましたら、「そうだす」いうてクスクス笑《わろ》てるのんです。「あんた今、『いつも奥様が出やはりまして』いうてはりましたなあ? 一体あれ誰のつもりでいうてなはったん?」いうとまたクスクス笑て、「奥様知りゃはれしまへんのんか、奥様とこの女子衆のつもりでいうてますねん」いうやありませんか。そいからよう聞いてみましたら、そこの家が私ンとこの大阪の事務所やいうことにしたあるのんやそうですねん。「仲居さんがこれこれいうてたけど、ほんまかいな?」いうて、光子さんに尋《た》ンねましたら、「ふん、そやねん」と、平気な顔して、「姉ちゃんとこの事務所、今橋と南と二つあるいうて、此処の番号|教《お》せたあるねん。姉ちゃんかって何ぞ家の方いそないいうといたらどやのん? 船場《せんば》の店の出店やいうてもええし、あて[#「あて」に傍点]の家でいかなんだら、ええ加減な名アいうといたらえやないかいな」いいなさるのんです。  そないして、だんだん私は抜き差しならん深みい陥《は》まって行きましてんけど、「こいではいかん」思たところで、もうそうなったらどないすることも出来しません。私は自分が光子さんに利用しられてることも、「姉ちゃん姉ちゃん」いわれながらその実馬鹿にしられてることも、感づいてましてん。――はあ、そら、いつや光子さんがいうてなさったのんに、「異性の人に崇拝しられるより同性の人に崇拝しられる時が、自分は一番誇り感じる。何でやいうたら、男の人が女の姿見て綺麗思うのん当り前や、女で女を迷わすこと出来る思うと、自分がそないまで綺麗のんかいなあいう