いうのんうそ[#「うそ」に傍点]やいうこと、さっき夫が会うた時はお腹にいろいろなもん詰めてなさったのんやいうこと、あの笠屋町の家にしたかて、常時|彼処《あそこ》にいなさるのんでも何でもないこと、この証文書かされた時は綿貫にあんじょう[#「あんじょう」に傍点]嵌《は》められて、脅迫しられたのんやいうこと、自分が欺《だま》されてたことから夫欺してたことまで、なんでも二時間ぐらいかかって一切合財《いっさいがっさい》話してやりましたら、「ふん、ふん」いうて、ときどき溜《た》め息《いき》つきながらしまいまで聞いてしもて、「そしたらお前の今いうたことちょっともうそ[#「うそ」に傍点]ないねんなあ? 綿貫いう男にそんな秘密あること確かやねんなあ?」いうて、「ほんまいうたら、自分の方にもちゃんと調べ届いてる」いうのんです。それが、夫が綿貫に会うたのんは四、五日前のことですのんに、そいから今日まで知らん顔して事件伏せといたいうのんは、何や綿貫いう奴の素振り怪しい、何ぞもっと深い訳あるのんやないかいう気イしたのんで、私に打《ぶ》つかる前に一往《いちおう》取り調べてやろ思て秘密探偵に頼んだとこが、そんな商売大阪にかって仰山《ぎょうさん》あれしませんさかい、こないだ光子さんが頼みなさったのんと同じとこい行ってしもたのんで、「その人なら大概のこと分ってます、前に調べたことあります」いうで、その場アで直きに答えてくれた。そいで綿貫が訪《た》ンねて来た日の夕方には、もう一と通り種上ってしもてたのんですが、夫はあんまり意外やのんで同名異人の間違いやないか知らん思いましてんけど、探偵の方には光子さんとのいきさつ[#「いきさつ」に傍点]まで分ってて疑がう余地あれしませんし、……そないなって来ると、今度は光子さん妊娠してなさるいうことや、笠屋町の家のことや、私と光子さんとの関係や、なんとも腑《ふ》に落ちんことだらけですよって、また改めて光子さんの方調べさした。その報告の届いたのん今朝《けさ》のことで、そいでも夫はまだ半信半疑でしたさかい、自分で様子見て来てやろ思てさっき不意に笠屋町|訪《た》ンねてやったいうのんです。「そしたらあの時、お腹に物詰めてはったこと分ってたん?」私はわざと打ち解けた調子でそないいうてやりましたけど、夫はそれには答えんと、「僕はお前の今日の態度いつもより柔順で正直なこと認める。けどそ