文持ち出して、――と、私はあらかた思案をきめて、二日かかっても三日かかってもきっとしまいにはいうこと聴かしてやるつもりで、なるべく反感挑発せんように、何いわれてもただ大人《おとな》しいに無言のうちに涙ぐみながら、堅い決心隠してるみたいに割りと落ち着いてましたのんで、それが夫にはなお気味悪うて、その晩はとうど夜の明けるまで一睡もせんと傍《そば》に着いてて、便所いまで一緒に来るのんです。そいで明くる日は一日事務所休んでしもて、御飯も二階に運ばすようにして、じっ[#「じっ」に傍点]と睨《にら》み合いしたなり、ときどき顔色うかごうては、「こないしてたら体つづけへんさかい、一と寝して頭休めてから、ゆっくり考え直して御覧」とか、「とにかく死ぬやの家出するやのいうこと、思い止まるいう約束してくれ」とかいいますねんけど、私は黙っていやいや[#「いやいや」に傍点]して見せるばっかりで、心のうちでは、此処まで来たらもう大丈夫や思てましてん。ところがそのまた明くる日の朝、夫はどうしても一時間か二時間事務所い出んならん用あるのんで、留守の間は絶対に外い出エへんし、電話もかけへんいうこと誓うか、それイヤやったら大阪い連れて行くいいますよって、「うち[#「うち」に傍点]かてあんた一人で出したら心配やさかい附いて行きます」いいましたら、「何が心配やのんや」いいますのんで、「うち[#「うち」に傍点]に内証で徳光さんとこいいいつけ口でもしに行かれたら、それこそ生きてられへん」いいますと、「僕かってそんな、お前に納得させへんうちに無断で不意討ち喰わすようなこと絶対にせエへん。僕がそれ誓《ちこ》たらお前も誓うてくれるか」いいますねん。そいで私も、「あんたさい意地の悪いことせエへんいうのんなら、留守のあいだぐらいじっ[#「じっ」に傍点]と待ってますさかい、安心して仕事して頂戴。うち[#「うち」に傍点]もその間アに一と休みしますわ」いうて、夫出してやりましたのんが九時頃のことで、暫《しばら》く寝台に横になってましてんけど、妙に興奮してしもてて寝られるどこやあれしません。それに夫から、大阪に着いたら直ぐ電話かかって、そいから三十分置きぐらいにチョイチョイかかって来ますさかい、何や知らん気分落ち着かんと、部屋の中往ったり来たりしながらいろいろなこと考えましたら、そのうちにふっと思いついたいうのんは、毎日々々こんな工