ないのんで、尚更《なおさら》誰に見られても私やいうこと分れへんやろ。待ち合わす時刻は朝の十時から十二時までの間、――その時分やったら夫きっと大阪い行てる。日イは、雨さい降らなんだら今日から三日目、その日イいかなんだら四日目も五日目も、毎日来ててもらう。と、そんな相談してましたら、またええ智慧《ちえ》出て来て、光子さんの方は二日目の晩あたりに一と足先浜寺い行てる。そないすると夫から問い合わせの電話かかったとき、「光子は昨日から別荘の方い行ってます」と、本宅の方でもいうやろし、光子さんの方いかかって来ても、「うち[#「うち」に傍点]こっちい来てること姉ちゃん知りゃはれしませんさかい。来やはるはずあれしません」いうて、自身で電話口い出てやんなさったら、これは遠い所い逃げたんやない、海で死んだのんかも分れへん思て、何より先に海の方捜索するやろ。そいでええ加減たった頃に、「実は今さっき奥様お見えになりまして、うっかり[#「うっかり」に傍点]してる間アにえらい事になりまして、……」とお梅どんから知らしてやる、この計略で時間計算してみましたら、家の者ら気イ付くまでに一時間半か二時間はかかる。そいから大阪い知らせ行って、問い合わせの電話かけたりして、夫|香櫨園《こうろえん》い帰って来るのんざっと[#「ざっと」に傍点]一時間、海捜したり近所|尋《た》ンねたりするのん一、二時間、お梅どんから知らして来て香櫨園から浜寺い駈《か》け付けるまでが一時間二、三十分、――都合五、六時間余裕あるのんで、それやったらちゃんとその間《ま》アに支度出来る。ただ気の毒やのんはお梅どんで、前の日イから光子さんに附いて浜寺い行ってて、彼処《あそこ》から十時までにわざわざ香櫨園い出て来て、暑い盛りに一時間も二時間も海岸に待ってんならん。それもひょッ[#「ひょッ」に傍点]としたら待ちぼけ喰《く》わされて、二日も三日も来んなりません。けど「あの児《こ》やったらきっとしてくれるわ、そんなことするのん好きやねんし」いいなさって、何から何まで洩《も》れのないように手筈《てはず》きめて、お互に「巧いことやって頂戴」いうて、光子さん帰って行きなさったのん一時頃でしたけど、それと殆《ほと》んど入れ違いみたいに夫戻って来ましたのんで、ほんまにこれやったら今日でのうてよかった思いましてん。 [#5字下げ]その三十[#「その三