つけなさいや」いいなさいますねん。「へえ、――それは誰ですか」と尋《た》ンねますと、「校長先生ですわ」といわれて、「此処《ここ》では詳しい話|出来《でけ》しませんさかい何処《どこ》ぞ外《そと》い行て、お昼御飯一緒に附き合うてもらわれしませんか? そしたらいろいろ、ゆっくり聞いてもらいますが」いいなさるもんですから、「何処いでも一緒にいきますわ」と、二人で天王寺公園の近所にあるレストランい行きました。そいから光子さん洋食たべながら話して下さったのんですが、わたしたちの事について悪い噂いい触らしたのんは実は校長さんやいいなさいますねん。なるほどそういわれて見ると、用もないのんに教室い這入《はい》って来て、みんなの前でわざと私に恥|掻《か》かすような事するいうのんが、だいぶんおかしい。悪意あってしたもんとしか思われへん。けどいったい何のために校長さんがそんな噂触れ廻るのんかといいますと、目的は光子さんにあるのんやそうで、何でも彼《か》でも光子さんの品行について悪い評判立ちさいしたらええのんやいうのんです。それがまたどういう訳やいいますと、その時分光子さんに結婚の話持ち上ってまして、先はMいう大阪でも有名なお金持の家の坊々《ぼんぼん》で、光子さん自身は気イ進んでおられなかったそうやのんですが、お宅ではたいそうその縁談望んでおられたし、先方でも光子さん欲しがっておられた。ところが或る市会議員のお嬢さんで、やっぱりそのMさんへ縁談持ちかけてる人あって、光子さんの方と競争の形になってた。――光子さんは競争のつもりやのうても、市会議員の方では大敵が現われた思いましてんやろ。何しろMさんの坊々は光子さんの器量にあこがれてラブレター寄越《よこ》したくらいやのんですから、それは大敵に違いあれしません。そいでその市会議員の方では八方い運動して、成ろうことなら光子さんにケチ附けよというのんで、もう今までにも随分いろいろと、光子さん外に男あるらしいとか、あることないこといい触らしてましたんやそうですが、まだそいだけでは飽き足らんと、とうど学校の方い手エ廻して、校長さん買収したのんですなあ。あ、そうそう、そいからその前に、――話がほんまにこんがらがって[#「こんがらがって」に傍点]ますけど、――その前にその校長さんが、校舎の修繕するからいうのんで、光子さんのお父様に、お金千円一時融通してもらえまいか