ないこと電話口で二、三十分もしゃべってます。手紙なども内証で遣《や》り取りしてたのんだんだんおおびら[#「おおびら」に傍点]になって、光子さんから来ましたのん読みさしのまま机の上などい放り出しときます。――尤《もっと》も夫は人の手紙を偸《ぬす》み読みするような人間と違いますよって、それは安心してましたけど、そいでも前には読んでしもたら急いで箪笥《たんす》の抽出《ひきだ》しい入れて鍵《かぎ》かけといたんですのんに。  そないにして、夫の方もいずれまた一と波瀾《はらん》持ち上ること分ってましたが、さしあたり前より都合ようなったくらいですよって、私はますますのぼせてしもて、情熱の奴隷となってしもたのんですが、その最中に、私に取ってまるきり寝耳に水の事が、――もうもうほんまに、夢にも思いがけなんだ事起ったのんです。それいうのんがちょうど六月の三日のことでした。おひる頃に光子さんが来なさって、夕方五時ぐらいまで遊んで帰りなさったあと、夫と二人で晩御飯たべてしもたのん八時で、それから一時間ほどたって、九時ちょっと過ぎた時分に、女子衆が、「大阪から奥様《おくさん》に電話かかってます」いうのんで、「大阪の誰やねん?」いいますと、「誰ともいやはれへんけど、大急ぎで電話口までいうてはります」いうのんです。「もしもしどなた様《さん》ですか」いいますと、「姉ちゃん、あて[#「あて」に傍点]――あて[#「あて」に傍点]や」いうのんが、光子さんより外にそんないいようする人はないのんですけど、それが電話が遠いのんか、小声でいうてるのんか、聴き取れんぐらいかすかやのんで、何や誰ぞにわるさでもしられてるような気イして、「あんた誰ですねん? はっきり名前いうて頂戴《ちょうだい》、何番い電話かけなさったん?」と念押しますと、「あて[#「あて」に傍点]やわ、姉ちゃん、あて[#「あて」に傍点]西宮《にしのみや》の一二三四番へかけてんねんわ」と家の電話番号をいう声が、聞いてるとやっぱり紛《まぎ》れものう光子さんで、「……あて[#「あて」に傍点]なあ、今大阪の南の方にいるねんけど、えらい目に遭《お》うてしもて、……着物盗まれてしもてん。」「何《なん》やて、着物を?……あんた何してたん?」「あて[#「あて」に傍点]お風呂い這入《はい》っててん。……此処《ここ》なあ、南地《なんち》の料理屋で、内にお風呂あるよって。…