して、ひどく機嫌が好かつた。そして明くる日、少し早めに夕飯を済ますと、 「神戸へ行かして貰ひまつせ。」 と、夫婦で新開地の聚楽館《じゅらくかん》へ出かけた。 おりんの経験だと、福子はいつも今津の家へ行つて来た当座、つまり懐《ふところ》にお小遣のある五六日か一週間のあひだと云ふものは、きまつて機嫌がいゝのである。此のあひだに彼女は盛んに無駄使ひをして、活動や歌劇見物などにも、二度ぐらゐは庄造を誘つて行く。従つて夫婦仲も睦じく、至極円満に治まつてゐるのだが、一週間目あたりからそろ/\懐が淋しくなつて、一日家でごろ/\しながら、間食ひをしたり雑誌を読んだりするやうになり出すと、とき/″\亭主に口叱言《くちこごと》を云ふ。尤も庄造も、女房の景気のいゝ時だけ忠実振りを発揮して、だん/\出るものが出なくなると、現金に態度を変へ、浮かぬ顔をして生返事をする癖があるのだが、結局双方から飛ばつちりを食ふ母親が、一番割が悪いことになる。だからおりんは、福子が今津へ駈け付ける度に、やれ/\これで当分は安心だと思つて、内々ほつとするのであつた。 で、今度もちやうどさう云ふ平和な一週間が始まつてゐたが、神戸へ行つてから三四日たつた或る日の夕方、亭主と二人晩飯のチヤブ台に向つてゐた福子は、 「こなひだの活動、ちよつとも面白いことあれへなんだなあ。」 と、自分も行ける口なので、ほんのり眼のふちへ酔ひを出しながら、 「―――なあ、あんたどない思うた?」 と、さう云つて銚子を取り上げると、庄造がそれを引つたくるやうにして此方からさした。 「一つ行こ。」 「もう、あかん。………酔うたわ、わて。」 「まあ、行こ、もう一つ。………」 「家で飲んだかて、おいしいことあれへん。それより明日何処ぞへ行けへん?」 「えゝなあ、行きたいなあ。」 「まだお小遣ちよつとも使うてエへんねんで。………こなひだの晩、家で御飯たべて出て、活動見たゞけやつたやろ、そやさかいに、まだたあん[#「たあん」に傍点]と持つてるねん。」 「何処にせう、そしたら?………」 「宝塚、今月は何やつてるやろ?」 「歌劇かいな。―――」 後《あと》に旧温泉と云ふ楽しみはあるにしてからが、何だかもう一つ気が乗らない顔つきをした。 「―――そないにたんとお小遣あるのんやつたら、もつと面白いことないやろか。」 「何ぞ考