だぜ。大人の心で子供を推し測るもんだから可哀そうに思えるんだが、子供自身はこれから成長するのだから、そのくらいな打撃に堪《た》える力は持っているんだぜ。ようく分るように云って聴かしたらあきらめる[#「あきらめる」に傍点]ところはちゃんとあきらめ[#「あきらめ」に傍点]て、理解するに違いないんだが、………」 「それは僕にも分っているんだよ。君の考える通りのことを僕も一と通りは考えたんだ」 ありていに云うと、要はこの従弟《いとこ》が上海から来てくれる日を、半ばは心待ちにもし、半ばは荷厄介にもしていた。不愉快なことは一日延ばしに先へ延ばして土壇場《どたんば》へ追い詰められるまでは云い出し得ない自分の弱い性質を思うと、従弟が早く来てくれたら自然いやいやながらでも前のめり押し出されてカタが附きそうな気がしていたのだが、面と向ってその問題を持ち出されてみると、遠い所に置いてあったものが急に眼の前へ迫った感じで、励まされるよりは怯気《おじけ》がついて、臀込《しりご》みするようになるのであった。 「で、どうする今日は? 真っ直ぐ僕の家へ来るか」 と、彼は別なことを尋ねた。 「どうしてもいい。大阪に用があるんだけれど、今日でなくっても差支《さしつか》えない」 「じゃ、一と先ず落ち着いたらどうかね」 「美佐子さんは?」 「さあ、………僕が出かける時までは居たが、………」 「今日は、僕を待っていやしないか」 「或はわざと気を利《き》かして出たかも知れんね、自分がいない方がいいと云う風に、―――少くともそれを口実にして」 「うん、まあ、それは、―――美佐子さんにもいろいろ聞いてみたいんだけれど、その前によく君の方の腹をたしかめて置く必要があるんだ。いったい、いくら近しい間柄でも夫婦の別れ話の中へ他人が這入《はい》るのは間違ってるんだが、君たちばかりは自分で自分の始末が付かない夫婦なんだから、………」 「君、昼飯は済んでいるのか」 と、要はもう一度別なことを尋ねた。 「いいや、まだだ」 「神戸で飯を食って行こうか、子供は犬がいるんだから先へ帰るよ」 「小父さん、犬を見て来ましたよ」 そう云いながら、そこへ弘が戻って来た。 「素敵《すてき》だなあ、あれは。まるで鹿みたいな感じだなあ」 「うん、走らしたら非常に速いぞ。汽車より速いと云うくらいで、あれを運動させる