口実にして」 「うん、まあ、それは、―――美佐子さんにもいろいろ聞いてみたいんだけれど、その前によく君の方の腹をたしかめて置く必要があるんだ。いったい、いくら近しい間柄でも夫婦の別れ話の中へ他人が這入《はい》るのは間違ってるんだが、君たちばかりは自分で自分の始末が付かない夫婦なんだから、………」 「君、昼飯は済んでいるのか」 と、要はもう一度別なことを尋ねた。 「いいや、まだだ」 「神戸で飯を食って行こうか、子供は犬がいるんだから先へ帰るよ」 「小父さん、犬を見て来ましたよ」 そう云いながら、そこへ弘が戻って来た。 「素敵《すてき》だなあ、あれは。まるで鹿みたいな感じだなあ」 「うん、走らしたら非常に速いぞ。汽車より速いと云うくらいで、あれを運動させるには自転車へ乗って引っ張るのが一番いいんだ。何しろ競馬に出る犬だから」 「競馬じゃあないでしょ、競犬でしょ小父さん」 「やられたね、一本」 「けれどあの犬、ディステムパアは済んでるかしら?」 「済んでるよ勿論《もちろん》、もうあの犬は一年と七箇月になるんだ。―――それよりあれをどうして家へ連れて行くかが問題だな、大阪まで汽車で、それから自動車ででも行くか」 「そんなことをしないだって阪急は平気なんですよ。ちょっと頭から風呂敷か何か被《かぶ》せてやれば、人間と一緒に乗せてくれるんです」 「へえ、そりゃハイカラだなあ、日本にもそんな電車があるのか」 「日本だって馬鹿に出来ないでしょう、どうだす[#「だす」に傍点]、小父さん?」 「そうだっか」 「おかしいや、小父さんの大阪弁は。それじゃアクセントが違ってらあ」 「弘の奴は大阪弁がうまくなっちゃって困るんだよ、学校と家とで使い分けをやるんだから、―――」 「そらなあ、僕かって標準語使え云うたら使わんことないけど、学校やったら誰かってみんな大阪弁ばっかりやさかい………」 「弘」 と、要は図に乗ってしゃべりつづけようとする子供を制した。 「お前、犬を受け取ったらじいや[#「じいや」に傍点]を連れて先へお帰り、小父さんは神戸に用があるそうだし、………」 「お父さんは?」 「お父さんも小父さんと一緒だ。小父さんは実は、久しぶりで神戸のすき[#「すき」に傍点]焼がたべたいと云うんで、これから三ツ輪へ出かけるんだよ。お前は朝がおそかったからそ