朝がおそかったからそんなに減ってやしないだろう? それにお父さんは少し小父さんと話もあるし、………」 「ああ、そう」 子供は意味を悟ったらしく、顔を擡《あ》げて恐る恐る父の眼の色を見た。 [#5字下げ]その五[#「その五」は中見出し] 「とにかく弘君の一件はどうする気なんだ。話した方がいいにはいいが、話しにくいと云うのだったら、僕が話してやってもいいぜ」 せっかち[#「せっかち」に傍点]と云うほどでもないが、テキパキ事務を運んで行く習慣のついている高夏は、三ツ輪の座敷に足を伸ばすとすき[#「すき」に傍点]焼の鍋《なべ》の煮えるあいだも無駄に放っては置けないのであった。 「それはいかん、やっぱり僕から話す方が本当じゃないかな」 「そりゃあそうに違いないさ、ただその本当のことを君がなかなか実行しそうもないからさ」 「まあいい、そう云わんで子供のことは僕の勝手にさせてくれ給え。何と云っても彼奴《あいつ》の性質は僕が一番よく知っているんだから。―――今日だって君は気がつくまいが、弘の態度は余程いつもと違ってるんだよ」 「どう云う風に?」 「ふだんはあんな風に人の前で大阪弁を使ってみせたり、揚げ足を取ったりするようなことはめった[#「めった」に傍点]にないんだ。いくら君と親しいからって、あんなにはしゃぐ[#「はしゃぐ」に傍点]筈はないんだ」 「僕も少うし元気過ぎるとは思ったんだが、………じゃ、わざとはしゃい[#「はしゃい」に傍点]でいたのかね」 「そうだよ、きっと」 「どうしてだろう? 無理にもはしゃい[#「はしゃい」に傍点]で見せなければ僕に悪いと云う風に思ったのかしら?」 「それも多少はあるかも知れない、が、弘は実は君を恐れているんだよ。君が好きではあるんだが、同時にいくらか恐ろしくもあるんだ」 「なぜ?」 「子供は僕等の夫婦関係が何処《どこ》まで切迫しているのかは知るよしもないが、君が来たと云うことは何かしら形勢に変化が起る前兆だと思っているんだ。君が来なければ容易にわれわれはカタが付かない、そこへ君がカタをつけに来たと、そう思っているんだよ」 「成るほど、じゃあ僕が来るのはあまり有り難くない訳なんだな」 「そりゃあいろいろ土産物を貰《もら》うのは嬉しいし、君に会いたいには会いたいんだ。つまり君は好きなんだが、君の来ると云うことが