てよ」 「本員は決して悪意で申したのではない。しかし故《ゆえ》なく淑女の名誉を傷《きずつ》けたるのみならず、妄《みだ》りに議場を騒がしたる罪は謹んで陳謝いたします」 「ふ、ふ、あんまり淑女でもないんだけれど、………」 「では取り消さないでもいいですか」 「いいわ、どうせ。―――いずれ傷のつく名誉なんだから」 「そう云ったもんでもないでしょう。傷をつけないようにと云うんで、いろいろ苦心してるんでしょう」 「それは要はそうなんですけれど、そんなことを云ったって無理だと思うわ。―――昨日何かお話しになったの?」 「うん」 「どう云うんでしょう、要の方は?」 「例によって一向要領を得ないんだ。………」 二人は花やかな帯地の裂《きれ》が取り散らかされたスーツケースを中に挾《はさ》んで、寝台の両端に腰をかけた。 「あなたの方はどう云うんです?」 「どうって、そりゃあ、………そう一と口には云えやしないわ」 「だから一と口でなくてもいい、二た口にでも三口にでもして云ってみたら」 「高夏さんは、今日はお暇なの?」 「今日は一日|空《あ》けてあるんです、その積りで昨日の午後に大阪の用を済まして来たんだから」 「要は今日は?」 「午《ひる》から弘君を連れて宝塚へでも出かけようかって云ってましたぜ」 「弘には宿題をやらせましょうよ。そうして東京へ連れて行って下さらない?」 「連れて行くのは構わないが、さっき素振りがおかしかったな、泣いていたんじゃなかったのかな」 「そうよ、きっと、あれはああ云う風なんですから。―――あたし、どう云う気持になるものか、二三日の間でもいいから一遍子供と云うものを自分の傍から放してみたいの」 「それもいいかも知れないな、その間に斯波《しば》君とも十分話し合ってみるこッたな」 「要の考は高夏さんから聞かして下さる方がいいわ。二人で鼻を突き合わせると、どうしても思うように口がきけないの、或る程度まではいいけれど、それ以上に深入りすると涙ばかり出て来ちまって」 「一体しかし、阿曽君の所へ行けることは確かなんですか」 「そりゃ確かだわ。結局のところは二人の決心次第だと思うわ」 「向うの親や兄弟はなんにも知っていないのかしらん」 「うすうすは知っているらしいの」 「どう云う程度に?」 「まあ、要が承知でときどき会っている