芸者タイプは好かないんだ。ハイカラな、智的な娼婦型がいいんだ」 「それにしたって、女房になってから娼婦的行為を実行されたら困るじゃないか」 「智的な奴なら、そこは自制力を持ってるだろう」 「君の云うことはどこまでも勝手だよ。そんな虫のいい注文に篏《は》まるような女があるもんか。―――フェミニストと云う者は結局独身で通すより外仕方がないんだ、どんな女を持ったところで気に入る筈はないんだから」 「僕も実際結婚には懲《こ》りたよ。今度別れたらまあ当分は、―――或は一生貰わないでしまうかも知れない」 「そう云いながら、又貰っては失敗するのがフェミニストでもあるんだがね」 二人の会話は、仲居が給仕に這入《はい》って来たのでそれきり途切れた。 [#5字下げ]その六[#「その六」は中見出し] 朝も十時近くになって布団の中で眼を開いた美佐子は、庭の方で子供と犬とが戯れている声を、いつになくのんびりとした心持で聞いていた。「リンディー! リンディー!」「ピオニー! ピオニー!」と、子供はしきりに犬を呼んでいる。ピオニーと云うのは前から飼っているコリー種の牝《めす》で、去年の五月に神戸の犬屋から買った時にちょうど花壇に咲いていた牡丹《ぼたん》に因《ちな》んで名をつけたのだが、弘は早速|土産《みやげ》のグレイハウンドを曳《ひ》き出して、そのピオニーと友達にさせようとしているらしい。 「いかん、いかん、そう君のように急に仲好くさせようったって駄目だ。放って置けば自然に好くなるよ」 そう云っているのは高夏である。 「だって小父さん、牝《めす》牡《おす》ならば喧嘩《けんか》しないって云うじゃありませんか」 「それにしたってまだ昨日来たばかりだから駄目だ」 「喧嘩したら孰方《どっち》が強いかしら?」 「そうだな、ほんとに。―――ちょうど両方同じくらいな大きさなんでいけないんだな。孰方か小さいと大きい方が相手にしないんで直ぐに仲好くなるんだがな」 その間も二頭の犬は代る代る吠《ほ》えていた。ゆうべ帰りがおそかった美佐子は、旅の疲れで睡そうにしていた高夏と二三十分しゃべったばかりで、土産の犬はまだ見ていないのだが、あのひいひい[#「ひいひい」に傍点]と風邪声《かざごえ》のようなかすれた声で啼《な》いている方がピオニーであろう。彼女は夫や弘ほどに犬好きではないのだけれ